自由恋愛を通して結婚

そういえば、母が父に口ごたえしている場面の記憶もあまりない・当然のことながら夫婦げんかもやらなかった。母がヒステリーを起こして当たり散らすのを見たことは一度もなかった。それなのに、なぜかぼくは父と母の関係にもう一つ満足できないものがあった。それは、そのころの夫婦のパターンである、夫唱婦随、貞淑、内助の功、献身、亭主関白など、この中には今日でももちろん大切にしなければならないものもあるが、これらのものは総体的にいって女性を卑屈にし、没個性的にする気配が濃厚だった。もし、あなたが恋愛向きなら、将来の結婚に向けて経験値を増やしましょう。あのフランス映画や(令) アメリカ映画に見られるような生き生きとした美しい女性の姿は望むべくもなかった。それというのも、もとはといえば、本人同士の意志というより、親同士、上司などの事情で見合いさせられ、結婚させられたことが当人たちの自由な気持の発展を抑制し、とくに女性の自立独立の意欲を阻害する大きな原因だったのではないだろうか。見合い結婚という形がいつごろからはじまったか知らないが、都会と農村、富者と貧者、権力者と非権力者とのあいだでは時代的にも大きなひらきがあると思う。たとえば貴族階級のあいだでは奈良時代以前からすでに媒介婚は行なわれていただろうし、農村地帯では、つよぱい最近まで夜這いと呼ばれる自由恋愛を通して結婚にいたるのがごく普通の形だった。

出典:

DK114_L